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雨桜に心ひかれて…

 武漢大学キャンパスの春と言えば、桜で有名。その桜が今見ごろだと言う。いつの間にか、ここ武漢も春本番を迎えようとしている。

***

 ぼんやり過ごしていると、季節の変わり目は、まるで突然に前触れもなくやって来ては人を驚かせる。僕を驚かせてくれたのは何も桜だけではなかった。それは一冊の本だった。

 書名は「雨桜」。中国語で書かれた小説で、作者は日本人である。作者が、どうしてこの小説を中国語で書き、出版するにいたったのかは、ここでは触れない。とにかく、作者は、この小説の邦語版を日本で出版したい、と言うのである。その話が、僕の義母を経由してやってきた。つまり、「この小説を翻訳してみる気はあるか?」ということだったのである。

 しばらく考えて、やらせてもらうことに決めた。とは言っても、本来僕の専門は、法や政治、それに歴史にかかわる社会科学領域である。文芸作品の翻訳には、これまで手をつけたことがない。それでも、強く心ひかれたのには、それなりの理由もある。

 ひとつは、作者の経歴。これについては、無事邦語版の「雨桜」が陽の目を見ればお察しいただけると思うので、ここでは触れない。ふたつ目は、この小説の冒頭部分にある。実は、この小説の書き出しは、1958年、中国青島が舞台である。「それがどうした?」と怪訝な顔をされるかもしれないけれど、僕にとっては、とても大切なことだった。1958年、この年に僕は日本の片田舎で生まれた。そして、僕のその故郷と青島のある山東省は、姉妹都市の関係にある。何となく「縁」の深さを感じてしまった。それだけではない。青島という街を、僕は「海辺の街」と呼んで、このブログでも稚拙な物語の舞台として描かせてもらったことがある。というのも、今の僕があるのも、実は青島との出会い、そこで経験した日々があったからだと、誇張抜きで言うことさえできる。

 …考えてみると(いや、もっと正直に言えば、「考えるまでもなく」なのだけど)、僕はいつも、こうした偶然の出会いに支えられて生きてきたような気がする。身の丈も知らずに、この小説を翻訳してみたいと決めたのも、そういう思いと無関係ではなかった。

 さて、翻訳作業は今月末から始める。「始める」とは言っても、僕一人の力で、ではない。ワークショップという形式で、若手の先生方にも声をかけさせていただいた。日本の「読者」を想定したうえでの実践的な翻訳、これは先生方の日本語力をブラッシュアップする、一つのきっかけになりはしないか、という思いからである。と同時に、大学院生有志にも、このワークショップへの参加を促したい。中国と日本の間(はざま)に生きた一人の人間の思いを、行間から読み取るという作業は、院生にとっても、何かしら大きな示唆を与えてくれると思うからである。

 

 春はめぐり来る。そして、僕の、長い長い冬籠りの季節も、ようやく過ぎ去ろうとしているのかもしれない。僕の肩に舞い降るのは、もう雪ではなくて、淡い色をにじませた桜吹雪だったから…。

 

 

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蛇足ですが…

 久しぶりに文章を書くと、そのたどたどしさに我ながら呆れて、思わずため息をついてしまいそうになる…。それでも、新しい自分探しの一歩には違いない、と自分を慰めている僕がいたりします(笑)。
 余談ですが、先日、本学で研究発表をしてくださった博士課程の院生、研究テーマは「会話やブログにおける『言いさし文』」でした。僕のブログもさしずめ「言いさし」ネタの宝庫っていえるのでしょうか?ひょえ~(汗)。

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最近周りの人々は「花見」に関する話をしています。この文章を見た後、やっと「花見の季節」が来たように気がします。

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お久しぶりです、お元気ですか。衷心よりご挨拶申し上げます。出来た翻訳をぜひ読ませてください。正直に申し上げますと、
なろうことなら、僕を仲間に入れていただきたいところです。
 
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一石亭は中国在住8年目を
迎えました。
でも中国語はまだ初歩の初歩。
趣味は「お仕事」と散歩、それに写真撮影。
あ、それからお昼寝も…趣味のうち、かも…。

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凹んだとき、元気がでないとき、僕を支えてくれ、力づけてくれるウタを週替わりで紹介します。ちょっと古い歌が多いかも…ですが。今週も「ちょっと切ない歌」を。

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