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引越しの話(2)甲子園の青い空

 父親の転勤先であった、兵庫、大阪、奈良、和歌山、徳島には、それぞれに夏の記憶が僕の心に鮮明に残っている。というのも、僕が父母のもとに帰省するのはせいぜい年に一度か二度、盆と正月ぐらいのものだったからだ。それにしてはなぜ、正月に結びつくような記憶を僕が持たないのか、そこのところは自分でもよくわからない。とにかく、僕の胸に焼き付いているのは、照りつける真夏の日差しであり、地面にくっきりと映る自分の黒い影であり、さまよい歩き続ける僕の目に映る見慣れぬ町の風景であった。
 兵庫では、阪神電鉄「甲子園駅」から歩いて20分ほどの公務員宿舎が僕の夏の「帰省先」となった。ちょうどその年の夏の高校野球は、大阪代表のPL高校と山口代表の宇部商業が決勝戦で激突することになった。のちにプロ野球で活躍する桑田(巨人)、清原(西武)を擁するPL高校は前評判も高く、順当に決勝に駒を進めていた。対する宇部商は、いく度かの手に汗握るような接戦を制してようやく勝ち上がってきたのだった。ふるさと山口の代表が勝ち残っていることもあって、僕は決勝まで連日自宅から歩いて10分ほどの甲子園球場に通いつめた。よく冷えたビールをクーラーボックスに詰めて、外野席に陣取り、かっと照りつける太陽の下でビールを飲みながら白球の行方を目で追った。
 決勝戦は思わぬ接戦にもつれ込み、先行する宇部商を優勝候補筆頭のPLが追う展開となった。僕は息を飲み、そしてふと我にかえっては乾いた喉をビールでうるおす、といった感じで、試合の行方を追った。が、地力で勝るPLは清原の2発のホームランで逆転し、粘る宇部商を突き放してゲームは終了。
 「ゲームセット」を告げる主審の右手が空に向かって伸びた。僕は、球場に流れる大会歌「栄冠は君に輝く」に身を任せながら、西に傾きかけた夏の太陽と澄みきった青い空をいつまでもぼんやりと眺め続けた。


 たまに高校野球の中継を目にすると、ただ酔っぱらいさまよい続けるだけで、自分自身が何を本当にやりたいのかさえよく分かってはいなかったあの頃の僕自身の姿を、ふと思い浮かべることがあるのだ、今でも。

 


 


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一石亭華中

Author:一石亭華中
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